ヘルニアと聞くと腰の痛みを出す「椎間板ヘルニア」を思い浮かべる方も多いと思います。
しかしヘルニアという症状は他にも様々あり、代表的な足の付け根の鼡径部の鼡径ヘルニアは聞いたことのある方もいるのではないでしょうか?
このようにたくさんある「ヘルニア」ですが、鼡径部と椎間板の2つの症状に絞り、手術から復帰するまでの期間を紹介します。
ヘルニアには種類があります
足の付け根にあって股間の一部でもある鼠径部にある鼠径管という箇所から腹膜や腸が飛び出すことがあります。飛び出す場所によって名称が異なり、鼠径部の外側から出ていると外鼠径ヘルニアと呼び、鼠径部の内側から出ていると内鼠径ヘルニアと呼びます。
また鼠径部の下、太ももから出てくるものを大腿ヘルニアと呼びます。
腹部にあるヘルニアの約8割は鼠径ヘルニアになります。その中でも多いのは外鼠径ヘルニアで、乳幼児にも発生することもあり男児に多い傾向にあります。
症状は不快感や引っ張るような痛みで、一般的に大切になってくるのは早急な外科的治療となります。
背中側にできるヘルニアに腰椎椎間板ヘルニアがあります。骨の間にあってクッションの役割がある椎間板の繊維輪が破けてしまい中から髄核が飛び出してしまった状態のことです。椎間板の後方には脊柱管があって神経が通っておりヘルニアが圧迫することによって痛みや痺れ、そして麻痺を引き起こします。
鼠径部のヘルニアと手術について
鼠径ヘルニアは、乳幼児の病気というだけではなく成人にも多く見られる病気です。また乳幼児と成人では原因が異なるため治療法も異なります。
成人の場合なりやすいのは、咳を良くする、妊娠している、過剰な運動をする、重い荷物を運ぶ職業、立ち仕事が多い職業、肥満である、喘息である、便秘である、慢性肺疾患である、そのようなことで鼠径ヘルニアが起こりやすくなると言われています。
成人の場合は自然に治ることはないので手術が必要となります。国内の手術件数は年間16万件(2010年)であり、患者の8割以上が男性でした。
手術の方法は、ヘルニア(飛び出し)がある部分を糸で引き寄せて縫い合わせる方法でしたが、そのような従来のものとは異なる手術時間が短い方法もあります。プラグ法では筋膜の弱いところにポリプロピレン製のプラグを入れてヘルニアの出口を塞ぐといった方法です。ヘルニアの出口を塞ぐ方法は他にもありそれらの手術で社会復帰が早期にできるようになりました。
鼠径部のヘルニアの手術から復帰するまでの期間
鼠径ヘルニア手術を行う場合の大まかな流れは以下のようになります。
術前検査を行って、約40分の手術を行って、麻酔による頭痛の吐き気が手術直後は残ることもありますが歩行が手術の翌日からで、入浴は術後3日後から、座っての仕事であれば退院後から、ゴルフなどの運動は2週間後から可能となり、力仕事は1ヶ月後から行えます。しかし個人差もあるので医者の指示に従ってください。
また、鼠径ヘルニアの手術法の一つに腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術法があります。開腹せずに5mm以下の穴を3つ開けて、一つは腹腔鏡を入れてお腹の中をテレビモニタに映して、他の2つの穴から手術器具を入れて外科医が治療を行います。
1980年代に海外で始めて行われた手術法で、2007年の日本では約6,200例あると推定されています。傷が小さいので回復が早い、入院期間が短い、といったメリットがあり、全身麻酔であること、開腹手術より手術時間は長くなる、費用が高くなる、頻度は少ないものの重篤な合併症が生じるといったデメリットがあります。
椎間板のヘルニアと手術について
普通は身体の一部を押したところで痛みはないでしょう。しかし叩いて赤く腫れ上がってしまうと触るだけでも痛みを感じるようになります。つまり炎症が起きることではじめて痛みが生じるのです。
同様のことが椎間板ヘルニアでも言えます。治療の主眼となることは出てきたヘルニアを引っ込めることではなく炎症を止めて痛みを止めることなのです。
また手術を受けた人と受けなかった人の経過を比べた研究があります。その報告によれば、術後1年後では手術をしなかった人よりも良い成績でしたが、術後4年後になると差はほとんどなくなっていたということでした。
そして椎間板ヘルニアの場合は手術を受けなくても手遅れになるということは原則的にありませんから、ご本人が手術を受けようと思ったときに受けるべき手術となります。しかしそうは言っても、尿失禁や膀胱直腸障害や筋肉の麻痺ということは起こりえます。そのような場合には一刻も早く手術を受けるのが良いでしょう。
椎間板のヘルニアの手術から復帰するまでの期間①
MED(内視鏡下腰椎椎間板摘出術)は、従来の切開では50mmから70mm程度開けていたものを18mmから20mm程度に小さくすることができるので、術後の痛みが軽くて回復も早い手術となります。そのため入院期間は4日から7日くらいとなり早期に社会復帰できます。
また背骨の手術で車椅子になってしまうという風評を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうが、7000を超える例では車椅子になった方や亡くなった方はおりません。
それから、PELD手術では傷口の直径が7mmという最小侵襲手術となり大変身体に優しい手術となります。手術はうつ伏せもくしは横向けで行い、全身麻酔となります。傷口も小さく、術後の痛みが軽く、背中の筋肉を剥がすのも最小なので脊柱の安定性を損なうことが非常に少ないことがメリットになります。
しかし、脊柱管狭窄している方、椎間腔が狭い方、ヘルニアが大きすぎる方、以前に同じ箇所のヘルニア手術を受けたことある方は、PELD手術ができません。
椎間板のヘルニアの手術から復帰するまでの期間②
enSpire(エンスパイヤー)は腰椎椎間板ヘルニア手術を行う際に使用するSpineView社の針です。
椎間板の中心(髄核)まで針を刺してからワイヤーを出して回転させることで髄核を削ってそれから吸引します。針を刺すだけなので傷口が非常に小さくなりますし、注射のような傷跡となるので絆創膏で塞げて、日帰りや1泊2日の早期に社会復帰を可能にします。
enSpireで椎間板ヘルニア手術ができるのは国内とアジアを含め一箇所のみです。
海外ではアメリカをはじめとした多くの国で使用されています。
デメリットとしては健康保険非適応であることです。
PLDD手術は、椎間板の中心(髄核)に刺したレーザーファイバーを指してからレーザーを照射して髄核を蒸発させてヘルニアを治療する手術となります。それから、従来の腰椎椎間板ヘルニア手術は最低でも2週間の入院が必要でしたが、現在上記の唯一の病院では薬や理学療法やブロック療法、さらに手術の中間に位置する療法としてレーザーによる経皮的髄核減圧術を行うことで、原則としては2日間の入院が必要ですが、状態によっては日帰りでも手術をすることができます。
ヘルニアの手術は迷います
ヘルニアといっても沢山の種類があり、場所によっては自然治癒する可能性もあります。そのためには普段からの姿勢や体の使い方を変える必要がありますが、それで治るのであれば手術は必要ないですよね。姿勢や使い方を変えても痛みが変わらない、もしくは姿勢を変えると痛むといった場合は、もう正常な姿勢に戻る為に手術を選択するしかないのかもしれません。手術をしても、今まで通りの姿勢や体の使い方をしていると再発したりする可能性がありますから、しっかりとリハビリして術後の生活習慣を変えていってください。