誰でも筋肉の一部がピクピクと動く一時的な痙攣は経験したことがあると思います。
痙攣の多くはストレスや疲労などによる神経過敏と診断されることが多いのですが、中にはals(筋萎縮性側策硬化症)という筋肉が動かなくなる恐ろしい病気があります。
この病気になると寝たきりになり人工呼吸器をつけないと自力で呼吸もできなくなります。
筋肉が痙攣する!als(筋萎縮性側策硬化症)ってなに??
alsは徐々に筋肉が動かなくなる病気です。
発症から5年以内で寝たきりとなり、最終的には呼吸も発語も不可能になり死に至ります。
35歳以上から発症率が徐々に高まってきます。
発症年齢のピークは男性で50〜69歳、女性で55〜74歳となっています。
筋肉を動かす運動ニューロンが障害されておこるとされていますが、発症の原因は不明で治療法も確立されていません。
自律神経は正常であるため、意識は保たれ、心臓や消化器も動きます。
初期症状は筋肉の痙攣で、手足や顔の筋肉に生じます。
こむら返りのようなひきつりとなりひどく痛む場合もあります。
痙攣が全身に生じ、徐々に筋肉が動かなくなり、徐々に弱っていきます。
そうすると、一層筋肉が動かせなくなり、さらに弱っていくという悪循環を引き起こしていきます。
最初に手足、特に指の筋肉が弱まり動かしにくくなっていきます。
その後、舌や呼吸、飲み込みに必要な筋肉が徐々に弱っていきます。
そのため、窒息を招いたり、呼吸や飲み込みの障害を引き起こします。
手足の筋肉の痙攣はalsの初期症状
alsはどの部位の運動ニューロンが犯されたかで初期症状が異なります。
その初期症状は大き3種類に分けられます。
1つ目は、手足に症状が出るタイプで、全体の75%はまずこの症状が現れます。
手に出るものを上肢型、足に出るものを下肢型と言います。
代表的な症状は、ものをすぐ落とす、腕があがりにくい、足の力が入りにくい、歩きにくくなる、手足が痙攣するなどです。
2つ目の症状は舌や喉の筋肉が弱くなりるタイプです。
25%がこの症状が初期に現れます。
言葉が不明瞭になる、飲み込みにくくなる、むせやすくなるといった症状が代表的です。
3つ目は呼吸する筋肉が麻痺するというタイプです。
わずか2%でこの初期症状が現れます。
手足など症状より呼吸困難が先にでます。
このように、初期症状は様々で人によって異なります。
代表的な初期症状である、筋肉の痙攣は手足や舌などが多いです。
このような、症状が気になったら、神経内科を受診することをお勧めいたします。
筋肉が痙攣!alsの原因
alsは筋肉の痙攣などの初期症状から最終的には死に至る恐ろしい病気です。
しかし、その原因は未だ解明されていません。
現在、発症の原因として考えられている仮説をあげていきます。
1つ目は、グルタミン酸過剰説です。
脳からの命令を筋肉に送るためには、運動ニューロンを介する必要があります。
その、運動ニューロンにグルタミン酸という物質を取り込む機能が障害され、過剰に蓄積されていくことで、運動ニューロンが死滅していくのではないかという説になります。
2つ目は、環境説です。
紀伊半島など特定の地域でalsが多く発症していることから、何かしらの環境が発症の原因となっているのではないかという説です。
3つ目は、神経栄養因子欠乏説です。
神経を成長させたり、回復させたりするのに必要な栄養分が欠乏することによって、運動ニューロンが死滅していくのではないかという説です。
4つ目は、家族性/遺伝生説です。
家族性のals患者に特有の遺伝子が発見されていることからこの説が生まれています。
alsの診断方法や検査方法
alsの検査・診断方法には病歴の聴取と神経学的診断があります。
alsの身体所見に線維束性収縮があります。
これは、手足や顔の筋肉がちいさくぴくぴくと痙攣する症状です。
反射は初期には亢進しますが、筋肉の萎縮が進むにつれ、反射が低下します。
また、通常見られない病的な反射も出現します。
筋力の検査では通常筋力よりも低下の判定がなされます。
alsでは現れない症状として、「感覚障害」「膀胱直腸障害」「眼球運動障害」「褥瘡」があります。
つまりこれらの症状が現れた場合はalsではない可能性が高くなります。
筋電図検査では障害部位の電位振幅が大きくなり多相性電位が現れます。
神経伝導検査では、伝導速度は正常で、運動線維のみ活動電位が低下します。
画像診断では、脊髄疾患との鑑別をする必要があります。
脊髄液・血液検査ではHAMという脊髄症との鑑別が可能となります。
このように、alsの検査・診断では、alsと似た運動障害を引き起こす病気との鑑別が重要となります。
alsの治療法とは??
alsの治療法は未だ確立されていません。
現在は、症状に対する対症療法が中心となっています。
alsは筋肉の痙攣などから始まり様々な症状が出現します。
具体的には、痛みや精神不安からくる不眠、呼吸や嚥下障害などです。
栄養管理を徹底しながら、それらの症状に対して、個別に治療していく必要があります。
痛みに対しては、痛み止めの服用やリハビリテーションが有効となります。
精神不安からくる不眠には睡眠薬が処方されます。
呼吸障害に対しては、マスクによる呼吸補助や気管切開などが行われます。
最終的には人工呼吸器の適用となります。
嚥下障害に対しては、食物の形や食べ方を工夫します。
自分で噛んだり、飲み込めない場合は胃や鼻に管を通し流動食を補給します。
現在、進行抑制作用が認められ、保険適用となっている薬にはリルテックというものがあります。
このように、症状を遅らせながら適切な治療を選択していくことで、通常5年以内に死亡するalsですが、10年生存する場合も有ります。
alsは不治の病
alsは筋肉の痙攣などの初期症状から最終的には発語や呼吸も困難となりますが、心臓は動き栄養も補給でき、意識も保たれます。
発語が困難でも、眼球の動きでコミュニケーションもとれます。
そのため、生きるために莫大な医療・介護費用が必要となります。
ここで延命するか否かという問題が生じてきます。
日本では、人工呼吸器を装着するか否かは患者自身の判断が可能となっています。
しかし、一度装着した人工呼吸器を患者の判断で外すことはできません。
そのため、装着後の家族の負担などを考慮すると、本当に装着すべきかどうかに患者は悩まされます。
しかし、ドイツでは人工呼吸器を装着しても、患者がそれを望まなければ中止できます。
患者に対して人工呼吸器の装着前にしても後にしても、患者の意思を尊重し、十分考える猶予が与えられています。
このような方針は、医療・介護において患者の意思を最大限尊重していくという、社会的なコンセンサスに基づいています。
alsは心理面のサポートが重要
alsは運動神経障害により身体の多くの機能が失われていく病気です。
残念ながら現在では完治する治療法は見つかっておりません。
また身体の機能が失われても知能や意識は正常にあります。
そのため心理面でのサポートが不可欠とされています。
alsによる福祉支援や相談事業など行われているので知っておくといいでしょう。