脱臼といっても様々な関節で起こり、肘関節もそのひとつです。脱臼は一度起こるときちんと治療しリハビリしないとクセになると良く言われます。そこで今回は肘を脱臼したときの治療法やリハビリ、後遺症などについて再発リスクを少しでもなくすために知識としてまとめてみました。参考にしてください。
肘の脱臼はなぜ起こる?
肘関節脱臼は肩関節脱臼の次に多い脱臼部位です。
肘関節脱臼は骨の脱臼の仕方によって前方脱臼・後方脱臼・橈骨頭脱臼と区分されます。肘関節は上腕骨・尺骨・橈骨の3つの骨から成っていて、関節の内側と外側はそれぞれ靭帯で支えられています。それにより肘の曲げ伸ばし動作が可能になります。
しかし、転倒などで手を強くついた勢いで肘が外れてしまうと、強い痛みを感じ、肘の曲げ伸ばし動作ができなくなります。これが肘関節脱臼です。
尺骨が上腕骨の後ろ側に脱臼し、強い痛みと共に肘の曲げ伸ばしができなくなるのが後方脱臼です。外見からも後方に骨が飛び出ているのがを確認できます。
また、肘を曲げた状態でぶつけた時、上腕骨の先端が飛び出してしまうのが前方脱臼です。多くの場合、肘頭の骨折を伴い、動揺関節や可動域制限などの後遺症が残ることがあります。
肘関節脱臼の原因としては転倒や事故などの外傷が主に挙げられます。
肘関節は反り返り動作など伸展に優れている特徴があるため、肘関節を支える周囲の軟部組織は弱く、過剰に伸展すると外れやすい構造になっています。さらに、幼児の場合は骨そのものがまだ未発達なので、腕が引っ張られると橈骨頭が外れて亜脱臼の状態になってしまうことがあります。再脱臼を繰り返す人は肘に帯や筋肉・腱などが挟まっている場合もあり、手術が必要となります。
肘の脱臼の完治はリハビリが最重要
脱臼により周りの軟部組織の靭帯、関節包が損傷しているので、整復処置後に1~3週間、肘を安静固定させます。ギプス、脱着可能なクラーメル副子と包帯・三角巾などで固定します。しかし、固定による筋機能の低下を防ぐことや腫れによる末梢の血行循環障害を防止するためにも、肘以外の関節つまり指の屈伸運動や前腕の筋肉に力を入れる運動などをできるだけ早くから行うことが勧められています。
肘周辺の組織の炎症と腫れを抑えるために局所を冷却、つまりアイシング治療も行います。受傷後から約1週間、炎症期間中に毎日、1回15分程度のアイシングを休憩を交えて何度も行います。
また、前腕や手指のむくみを改善するために、肘の固定を外して、肘を動かさないように注意を払いつつ末梢から体幹へリンパ誘導マッサージを行います。
1~3週間経過後、様子をみながら肘の介助運動や自動運動を始めていきます。
しかし、再脱臼を避けるため、リハビリ運動開始時期は専門家の指示に従うことが必要です。
運動療法開始時は肘関節が固く、思うように動かせませんが、少しずつ改善していきます。
温熱療法、電気療法、手技療法なども併用し、筋肉の緊張や、軟部組織をほぐし、血行を促進していきます。肘関節脱臼の完全な回復には長い時間を要します。動かす時に痛みを感じることもあります。気長に根気よくリハビリを継続することが大切です。
リハビリしても肘は再脱臼しやすくなるの?
肘関節後方脱臼を整復する場合は肘関節を軽く曲げて、前腕を後ろに押し下げながら引っ張ります。その後、肘関節が安定していることが確認できたなら、肘関節を曲げたままギプスで1~3週間固定すると完治します。
整復されてもすぐに再脱臼する場合は、広範囲に靭帯が損傷している可能性があります。その場合は2~3週間ほどギプスで固定をし、回復を待ちます。それでも改善しない場合は靭帯の縫合手術が必要となります。手術には一般的に行われる直視下手術と体に負担が少なく、術後の痛みが少ない関節鏡視下手術があります。
いずれにしても損傷した靭帯や関節包などの軟部組織をもとの位置に縫い付けたり、骨や腱で補強したりします。
肘関節前方脱臼を整復する場合は、腕を長軸方向、つまり床方向に引っ張り、前腕骨の肘に近い部分を後ろ側に押します。尺骨の肘頭骨折を併発している場合は動揺関節や可動域制限などの後遺症を回避するために手術が必要となります。
肘脱臼の合併症や後遺症
脱臼の合併症としては靱帯断裂、関節半月や関節唇などの線維軟骨損傷、骨折、腱断裂、神経損傷、血管損傷が挙げられます。
脱臼した際に圧迫され傷ついた神経、血管損傷は脱臼が整復されると回復します。しかし、血管の圧迫は整復が遅れると阻血性拘縮(そけつせいこうしゅく)という重篤な障害を生じさせるので注意が必要です。神経圧迫の場合も整復が遅れるとリハビリが困難になり、回復まで時間がかかります。
関節半月や関節唇の損傷、靱帯の損傷を併発する場合、スポーツや労働作業に支障をきたすこともあり、場合によっては手術により関節を再建しなくてはなりません。
変形性の関節症や反復性脱臼という後遺症が残ることもあります。
骨折を伴う際はほとんどの場合、手術的な整復が必要となります。
靱帯断裂の場合、靭帯が修復しないと後遺症として動揺関節など関節が不安定な状態になります。その場合は習慣性亜脱臼の原因となってしまうため、手術により靭帯を再建します。
関節包の損傷を伴う完全脱臼の場合、関節を動かさないでいるために関節や周りの筋肉が固くなって本来の動きができなくなってしまう可能性があるので、可動域改善のためにリハビリが必要となります。しかし、固くなった関節を無理に動かそうとすると骨化性筋炎(こつかせいきんえん)を生じさせてしまうので、無理をせず行うことが大切です。
スポーツをする方は焦らずリハビリに専念してください
ケガをしてしまい、スポーツができなくて焦る気持ちはよくわかります。でもケガをしてしまったのは事実。運動機能回復のためには治療と休養、そして”リハビリ”が欠かせません。
これからさらに上達して活躍するために必要なことは回復することです。
スポーツに復帰するまでの時間を有意義に活用するというプラス思考でいきましょう。
アメリカでは「リハビリこそがスポーツ復帰への鍵を握る!」というポジティブな考えが定着しています。
スポーツ界のリハビリはケガした部分の周囲の筋肉を鍛え、柔軟性を高めることにより運動機能の回復をはかる本来のリハビリの内容を超え、ケガした時よりもっとしなやかな筋肉を養い、ケガをする前よりももっとレベルアップした肉体を作るという熱き野望が秘められているのです。
元の運動機能を取り戻す以上のメリットがあるのです。ケガをして通常の練習ができないというマイナスイメージを払拭し、その時間をケガの回復とケガしていない部分の筋力トレーニングに励んでみるのはいかがでしょうか?
必要なのは、ケガにより落ち込んだ後、そこから何かをつかんで、学んで立ち上がることです。スポーツをする上で動じない精神力の強さも大切です。ケガをして練習ができない、その絶望的なピンチをチャンスと捉えて前進しましょう。
肘を脱臼すると本当に日常生活で困ります
ケガによって実際に片腕が使えなくなってみて、初めて日常生活への影響の大きさが身に染みて分かると思います。。本当に苦労します。普段何気なく行っていた着替えでさえ、他の人に助けてもらわないと袖を通すのも大変です。食事の時に茶碗をもってご飯を食べられないので、食べづらいことこの上ないです。歯磨き粉のふたを開けるのも、ペットボトルのふたを開けるのも普段は両手でしていたことに気が付きました。ドライヤーで髪を乾かしたり、通勤時に電車の吊革を掴むことや傘を差すという動作も片腕では本当に困難です。
両腕が使えて、普段普通にこなしていたことが、いざできなくなる時に感じるいら立ちや不便さを経験すると思います。
「あ、一人じゃこれもできない・・・」と何度も痛感することでしょう。
デスクワーカーの場合は仕事でパソコンを使うので、仕事にも困難をきたすかもしれません。ケガをした腕が回復するまでは、家族や周りの人に協力をお願いしましょう。その際、感謝の心と言葉も忘れないようにしましょう。
肘を脱臼してしまったら後悔せず前に進みましょう
もう起きてしまったことは消せません。肘を脱臼してしまったら、しっかり治療してリハビリをして元通りの生活に戻る為にひたすら努力するしかありません。リハビリ中、上で説明したように、辛いことがたくさんあります。それを嘆いても仕方ありません。前向きに進めば、完治したときさらに成長した自分に出会えるかもしれませんよ。