野球をやっていると肩や肘は消耗品であり、投げる球数が増えてくればそれだけケガする確率が上がってしまうというのが通説です。
怪我をして野球を続けるのを断念する方がいる一方で、中日ドラゴンズで50歳まで現役を続け去年引退した山本昌選手みたいにまだまだ投げられるかもしれない方もいます。
この差は何なのか、投げ方やケアの仕方など様々な視点から考えてみたい。
野球による肩の筋肉痛は当たり前
野球において投げるという動作は当たり前の動作です。
ただ私達人間の動作としては、少し負荷が強い動作に分類されます。
ですから投げることで肩を動かす筋肉、肩と連動して活動する筋肉は毎回負担がかかっています。
筋肉痛とは筋肉を構成している筋繊維や結合組織が収縮を繰り返すことで損傷し、その炎症による痛みだと言われています。
つまり通常の筋肉本来の活動では程よく熱を生み出し体温を維持したり身体を動かす活動エネルギーを発生させるだけで済みますが、負荷レベルがある一定のラインを越えてくるとたくさんある筋繊維のうちのどれかが傷つき活動を止めてしまいます。すると他の筋繊維にしわ寄せがきて、一つの筋繊維辺りの負荷が増加し、またどれかが活動を止めてしまいます。この繰り返しが同じ動作の反復の限界を迎えて動けなくなるのです。
筋肉の活動を綱引きに例えてみると、最初はみんな元気に引っ張りますが、少しずつ疲れた人が脱落しその負担が他の人に掛かります。そしてやがてそれに耐えられなくなり負けてしまいます。疲れ切った人は手にマメを作ったり、転んで肘や膝を擦りむいたりしているかもしれません。
つまり、筋肉はある一定以上の力を発揮し続けていれば必ず限界を迎えるのです。
そして、その際ケガをしたした人を手当てするようにまた同じ人数で活動をするためにインターバルが必要なのです。
このように筋肉の活動を他のことに置き換えることで筋肉痛になるメカニズムがお分かりいただけましたでしょうか。
野球で肩が筋肉痛にならなければケアは不要?
先ほどの説明で筋肉痛のメカニズムをご理解していただいたところで、次に野球において筋肉痛にならないようにするために出来ることを考えてみましょう。
単純に考えると、ひとつの筋肉を使い過ぎない、負荷レベルを低くする、筋力を強くする、筋繊維を多く使う、力の方向と出すタイミングを揃えるといったところでしょうか。
またまた綱引きに例えてみましょう。
・ひとつの筋肉を使い過ぎない
肩だけでなく全身を連動させる
綱引きばかりすると飽きるので、他の競技にも参加する
・負荷レベルを低くする
毎回100%で投げずに8~9割の力で投げる
綱引きの対戦相手の人数が1~2割少ない
・筋力を強くする
筋肉がダメージを受ける高負荷のレベルをある一定以上に筋肥大させて鍛える
綱引き参加者を力のある若い男性で構成する
・筋繊維を多く使う
ウォーミングアップをしてしっかりと準備をする
事前に参加者を募り綱引きの並び順なども決定しておいて準備万端で臨む(突然の参 加呼びかけでは規定人数に足りなくなる恐れがある
・力の方向と出すタイミングを揃える
投球動作のメカニズムを正しく理解し無駄のない効率の良い投球をする
事前に集まって綱引きの力を出すタイミングの声出しを揃えたり、後ろに引っ張りや すい身体の使い方を全員に伝達する
このように考えると筋肉の負担が軽くなり筋肉痛になる確率を低く抑えることが出来るのではないかと思います。
野球による肩の酷使で陥る筋肉痛以外の怪我とは
野球で肩を痛めることは総称して野球肩と言います。
これは怪我〔外傷〕と使い過ぎの二つに分類できます。
怪我の場合、急にボールを投げたら肩に激痛が走って、ボールが全く投げられなくなったといったような、急性のはっきりとした症状がある場合がほとんどです。
例えば外野からホームに向かって遠投をしたときに肩がすっぽ抜けそうになり激痛が走ったとか、ピッチャーが全力で速球を投げたときに肩から凄い音がして、痛みでマウンドにしゃがみこんだとかといった場合です。
この怪我を具体的に挙げますと、肩の亜脱臼・脱臼、関節唇損傷〔かんせつしんそんしょう〕、腱板損傷〔けんばんそんしょう〕、骨折などになります。
使い過ぎ、投げ過ぎの場合は
・投球するときに腕が抜けないように働いている肩後ろ側の筋肉疲労〔棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋〕
・その筋肉が疲労してくると肩関節が不安定になってくる
・不安定なままの状態での投球を続けると肩関節〔上腕二頭筋長頭腱付着部〕への過負荷がかかってくる
・その付着部で炎症が起こる、関節唇の剥離が起こる
・投げ続けると軽いものが強い炎症になってしまう。
・棘上筋や関節包などが痛んでしまう〔投げる瞬間の痛みが強くなるが我慢すれば投げれなくはない状態〕
・ひどい野球肩になると、投手断念もしくは野球を断念せざるを得なくなる
このように症状の積み重ねが原因となってくるのです。
自分の身体を理解することが長く投げ続ける秘訣
野球肩はレントゲンやMRIでも原因が分からないことも多く、医者は単純に「投げ過ぎ」と診断します。
ちゃんとケアをしなかったこと、アップもロクにせず、いきなり全力で投げ続けてきたことへの後悔もあり、納得をしたかもしれません。
けれども、プロ野球で活躍している選手たちは、普通の何倍も練習をしているはずですが、野球肩にはなりにくいです。
もし、野球肩の原因が「投げ過ぎ」だとしたら、プロ野球選手は全員、野球肩で投げられなくなり選手生命を早期に終えるのが当たり前になっているはずです。
どうして同じように練習をして、同じように試合に出場し、満足にケアをしようがしていまいが、野球肩になってしまう人と、ならない人がいるのでしょうか?
結局は野球肩と総称しても原因や症状は人それぞれ違うということです。
例えば、シャドウピッチングでは痛みは出ないのに、ボールを持って投げたときだけ痛い場合です。それはシャドウピッチングのときに使う筋肉には問題がなく、ボールを持ったときにだけ使われる筋肉のどこかに原因があるということです。
もしかしたら肩ではなくボールを持ったときに使われる腕の筋肉が痛みの根本的な原因になっている可能性があります。
ですから肩だけをいくら治療していても痛みはとれませんし、肩のレントゲンやMRIを撮っても原因が判明しないのです。
人はそれぞれ身長、体重、筋力が違うのだから、投球フォームが同じになるわけもなく、投げるときに使われる筋肉の割合も、負担の度合いも人それぞれ違うのが当たり前なのです。
野球肩になる人は、筋肉に負担がかかりやすい、好ましくない自分の身体に合っていない投げ方をしているということです。
何よりも投げ過ぎは絶対してはいけない
私達の身体は機械や自動車とは違います。
壊れたらパーツを新品と交換するといった修理が出来るわけではありません。
壊れないように大事に使っていくしかないのです。
壊れないように、しっかりと取り扱い説明書通りに使う必要がありますし、毎回使う前や使った後に油を差したりとメンテナンスをすることで長持ちします。
そして油は冷めると固まってしまいやすいので、しっかりと熱を加えて滑らかにしてあげる必要があります。
つまり自分の身体にとって一番負担なく最大限エネルギーを使える方法を見つけ出し、しっかりとウォームアップで筋肉を温め、投球後はストレッチで固まらないようにするといったことをすることです。
痛みが出たから、痛みの出ない投げ方にしたというのは正しくありません。
ただ痛んだ部分に負担がかかりにくい投げ方が見つかっただけであり、他の筋肉に負担が乗っかっています。すると、また違う痛みが出てくるといった悪循環に陥ります。
逆に投げない使わないといったことも筋肉にとって良くありません。
自動車は乗らずに放置していると錆びが発生し、いざ乗ろうとしたときに思い通りに走ってくれませんよね。
筋肉も使わないと凝り固まって、いざ投げようとしても正しい投球動作が出来なくなります。
そうならないためにも普段から身体のケアと野球の前後のメンテナンスとしてストレッチは取り入れていただきたいと思います。
最近ピッチャーが登板後に肩を大袈裟にアイシングしている映像を良く見かけますが、必ずしもあの行為が有効ではないようです。やはりものは冷えると活動が弱くなり固まろうとする自然の摂理があります。もしかしたら、アイシングが逆効果になっている恐れもあるそうです。
元中日の山本昌選手は引退まで一度もアイシングをしたことがないとテレビで語っていましたし、あのイチロー選手もデッドボールや自打球に当たってもコールドスプレーで冷やしたりしないそうです。
そして二人に共通していることはストレッチを非常に念入りにやっていること。
そう考えると投球後のアイシングよりも普段のストレッチに注目してみたほうが良いのではないかと思えるのです。
まとめ【野球における肩は消耗品?筋肉痛や怪我について考えてみた。】
野球をやっていると自分だけでなく周りのチームメイトも肩を痛める場面に幾度となく立ち会うと思います。そんなとき、その人がどれだけ念入りに身体メンテナンスをしているか、投げ方がスムーズかどうか考えてみると良いでしょう。これまでの常識が必ずしも正しいと思わずに一度疑ってみるのも面白いかもしれませんね。