日本では高齢化が進み、それと同時に高血圧や糖尿病といった病気や体の痛みに悩まされている人達が増加しています。
高齢者になると日常生活が不便になる体の痛みで歩けないこともあると、その先の人生に大きく影響すること間違いないでしょう。
ここでは腰痛で病院に行くと診断されることが多い、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)について解説し、その対策法を紹介します。
高齢者の腰痛で歩けない脊柱管狭窄症とは?
背骨は積み木のように重なる台のような骨とその間にクッションとなる軟骨があり、その外側の背中側に棘のような骨があって手で触れられます。
この背骨の構造の間に神経が通るスペースがあり、それは脊柱管と呼ばれ、脊髄とその末端部分の馬尾、横に流れるように出ている神経根があります。
脊髄などの神経は背骨に守られていますが、長い年月体を支えていると背骨やその周りが変形していくのです。
そうして脊柱管の周辺が変形していくと、神経の通り道が狭くなり腰痛や脚の痛みと痺れ、長く歩けないなどの症状が出てきます。
これは変形した部分が神経に当たって圧迫され、腰の部分の背骨から出ている脚への神経に影響を与えるからです。
中でも長く歩けない症状は代表的で、少し歩いては腰や脚に症状が出て動けなくなり、少し休むとまた歩けるようになるのを繰り返します。
これは間欠跛行(はこう)と呼ばれ、跛行とは脚を引きずるという意味です。
問題なのは長く歩くことができないので、日常的に運動不足になり筋力低下し、寝たきりや免疫低下により病気を引き起こす可能性があることです。
この病気は50歳位から高齢者に多く、背骨の中では腰にできやすく、腰部脊柱管狭窄症と呼ばれています。
高齢者の腰痛で歩けない脊柱管狭窄症の検査方法は?
腰椎脊柱管狭窄症の診断は、整形外科に行って診察してもらうことが多いでしょう。
ここでは簡単なレントゲン検査を行い、背骨の変形を確認して問診で聞いていた腰痛や脚の痛み、歩けない症状などと照らし合わせます。
それから神経が腰のどの部分で圧迫されているのか、ハンマーで筋肉の端に付いている腱を叩いて調べます。
これは誰でも一度は見たことがある膝の腱を叩いて勝手に蹴り上げる反射が代表的で、膝以外にも踵周辺などで行われることです。
もし反射が出なければ、その部分を動かす神経の腰の部分が圧迫されている可能性があると判断されるのです。
他にも皮膚を検査道具で刺激を与え、感覚に異常があればその部分に対応する腰の神経を調べます。
高齢者の場合には、この時点で脊柱管狭窄症の診断が出る場合もあるようです。
また本当に骨の変形により脊髄が圧迫されているのか、詳しく調べるためにMRI(核磁気共鳴装置)という体を輪切りにして調べる機器を使うこともあります。
このMRIは大きな総合病院や整形外科の入院施設のある病院に多く設置され、最近では個人の整形外科にも設置されていることもあります。
無理に大掛かりな検査で病名を確定するより、腰痛や脚の痛みなどの症状改善を優先するなら、行きやすい近所の整形外科で治療してみることも選択の1つでしょう。
正確な腰の状態を知って安心したいなら、大きな病院に行くことをオススメします。
高齢者の腰痛で歩けない脊柱管狭窄症の治療方法
脊柱管狭窄症の治療は大きく分けて手術をしない保存療法と、手術をして障害のある場所を取り除く手術療法があります。
基本的には保存療法で、腰痛や脚の痛みと痺れは良くなっていくことが多いので、投薬、リハビリ、注射により改善を目指すことになります。
しかし腰痛や脚の痛みと痺れ長く歩けないなどの症状の他、股周りや脚の感覚が無くなるなど症状がある場合は手術が検討されます。
もし手術をすることになっても、脚の痺れなどの症状が残ることもあり、手術をする時期や回復について医師と相談しなければなりません。
手術と聞いて不安に思われる方も多いですが、実際に手術するほど症状が重い方は稀です。
むしろ腰椎脊柱管狭窄症と診断され日常生活を制限してしまい、筋力が弱まってしまう方が高齢者にとっては有害だと言えます。
保存療法と手術療法を理解し、回復への積極的な姿勢で、腰痛や脚の痛み長く歩けないという症状に向き合うことが大切です。
ここではそれぞれの代表的な治療法を解説していきます。
保存療法で腰痛を改善するには?
高齢者が腰痛で病院に行って脊柱管狭窄症と診断され、最初に行う治療は炎症と痛みを抑える作用がある消炎鎮痛剤の処方です。
続いて薬を服用しながら腰痛や脚の痛みでこわばった場所を、温熱療法や低周波などの電気療法、リハビリ施設によってはレーザー治療器という刺激が患部へ深く入る機器を使用するところもあります。
また動きやすいようにコルセットを処方されますが、普通に付けるよりもやや前屈になるようにすると効果的です。
これは腰椎の脊柱管狭窄症の場合、前かがみの姿勢になると歩けない状態から回復することがあるからです。
このような保存療法で改善しなかったり、元々症状が強く出ている場合は、注射による治療が行われます。
この注射による治療は、圧迫されている神経に痛みを感じなくさせる麻酔薬や、炎症を強力な作用で鎮めるステロイドホルモンを使用するものです。
注射の種類は代表的なものとして、硬膜外ブロック注射と神経根ブロック注射の2種類あります。
硬膜外ブロック注射は、お尻の割れ目の上にある仙骨に注射する仙骨部硬膜外ブロックと、腰の奥に注射する腰部硬膜外ブロックがあり、外来では比較的安全な仙骨部への注射が多いようです。
また神経根ブロック注射は、背骨の神経が出ている根元にレントゲン室で場所を確認しながら注射をし、硬膜外ブロック注射より手間が掛かります。
この2つの注射は複数回行う場合があり、麻酔薬は性質上長時間作用しませんので、他の保存療法と組み合わせて治療することが重要です。
手術療法で腰痛を改善するには?
脊柱管狭窄症で手術するのは、脚の力が入らない状態や神経の圧迫によりトイレのコントロールができずに漏らしてしまう他、保存療法が全く効果が出ない時に行うことがあります。
手術では腰痛や脚の痛みの原因となっている神経の圧迫を取り除き、歩けないなどの症状から回復を目指します。
実際の手術では、神経を圧迫している変形した骨を削り、症状の改善を促します。
骨を削ると背骨が不安定になるため、骨盤などから骨を削り背骨に固定したり、金属製の器具で固定する場合もあります。
これは高齢者にとって体への負担が大きいため、慎重に検討して行うべきことです。
また心臓や肝臓、脳、腎臓などの機能が低下していたり、糖尿や高血圧などの病気を患っていた場合は手術そのものが危険な時があります。
多くの場合は保存療法による改善が見込めますので、日常生活を維持しつつリハビリなどを行うことが有益です。
もし残念ながら手術により症状が回復しなかった場合、もう一度保存療法と手術療法を行うこともありますが、痛みによるストレスで悪化した心のケアを同時に行うことをオススメします。
一部では整形外科と精神科が協力し、腰痛やヘルニア、脊柱管狭窄症などの治療をしています。
心と体は密接な関係にありますので、痛みの治療に協力してくれる精神科へ受診してみるのも有益だと言えるでしょう。
高齢者の腰痛で注意が必要な病気
高齢者になると様々な病気に罹る可能性が高くなります。
中でも悪性腫瘍(がん)は50歳くらいからなりやすく、脊柱管狭窄症になりやすい年齢と重なります。
厄介なことに腰痛や脚の痛みや痺れ、歩けないなどの症状も骨のがんなどで起きる可能性があるのです。
他にも高齢の影響で免疫低下により脊髄感染症になることもあり、比較的知られた骨粗しょう症でも圧迫骨折という背骨が潰れて痛むこともあります。
また、背骨がくっついてしまう強直性脊椎炎のような珍しい病気があります。
この病気の診断には、専門の医師による問診とレントゲン検査だけでなく、血液検査も必要です。
それと高齢者でも稀な病気ではありますが多発性脊髄腫という病気があり、移動する痛みなどが特徴的です。
多発性脊髄腫の診断でレントゲン検査をすると、打ち抜き像と呼ばれる骨が壊れて所々抜けいるように見えます。
これは骨がスカスカになる骨粗しょう症と間違えられることもあり、専門の整形外科で詳しく診てもらう必要があります。
高齢化時代の代表的腰痛
脊柱管狭窄症は、高齢化している日本では身近な腰痛の名前となっています。
この不快な腰痛には脚の痛みや痺れ、長く歩けず散歩もできないなど、日常生活にも支障が出てしまいます。
何より問題なのは、体を動かす機会が減り筋肉が弱くなり、寝たきりになってしまうことです。
そうならないためにも症状の回復は重要で、薬やリハビリで回復することも多いので、悪化するまで放置せずに早めに治療しましょう。